情報理工
研究群紹介

ハカセになろう Messages from PhD and PhD candidates Vol.2 小山 創平さん(情報理工学位プログラム)
システム情報工学研究群(通称:シス情)では、在学生や社会で活躍するOB・OGの皆さんにインタビューを行っています。
今回は、2025年度 博士後期課程進学説明会~ハカセになろう~ と連動し、博士後期課程の現役学生・修了生に進学の経緯やご自身の研究、今後の展望などについてお話を伺います。
シリーズ2回目は、情報理工学位プログラム HPCS研究室システムソフトウェアチーム(指導教員:建部 修見 教授)において、ソフトウェア設計による高性能なストレージ・データ基盤の実現に関する研究に取り組む、社会人ドクターの小山 創平 (こやま そうへい)さんにご登場いただきました。
まずは、博士後期課程への進学を決めた理由を教えてください。
ストレージの専門家を目指す一方、業界(日系大手)の撤退傾向から進学後のキャリアと生活面への不安がありました。ところが当該分野を継続開発する現勤務先から誘いを受け、実務と博士課程の両立環境に加えて金銭面の見通しも立ちました。学術と産業の双方に貢献できるうえ、経済的にも無理のない形が整ったため、進学を決めました。
博士後期課程への進学を視野に入れた時期はいつでしたか?また、進学に向けてどのような準備をされたか、教えてください。
B4で博士進学の希望を表明したものの、M1では一度見送り就職活動へ舵を切りました。M2の秋に、指導教員のご紹介もあって現勤務先からお誘いをいただき、再び進学を決断しました。進学の準備はほとんどしていませんでしたが、学士課程・修士課程を通じて一定の研究成果を積み上げ、それが認知されていたことがお声がけの一因になりました。振り返れば、成果を外部に公開し、指導教員や周囲の方々の支援を受けて機会につなげることこそが、実効性のある進学準備だったと感じています。
現在の研究テーマの概要を教えていただけますか?
私の研究テーマは、ソフトウェア設計によって高性能なストレージ・データ基盤を実現することです。核となるのは、アプリケーション/ミドルウェア/階層的ストレージを横断したアプリ指向のコデザインと協調です。具体例として BBViewでは、アプリ改修を要さないミドルウェア層を設計し、並列ファイルシステムが不得手とする小さな非連続書き込みを大きな連続書き込みへ再編して帯域効率を高め、書き込み性能を大幅に向上させます。FINCHFSではファイルシステム層そのものを対象に、共有ディレクトリへの大量メタデータ処理を分散しつつディレクトリ名変更などの機能互換を維持する設計で、性能と機能の両立を実現します。いずれもレイヤ個別の部分最適に留まらず、層をまたぐ設定や方針のズレをなくし、現場に導入しやすい形で実効的な性能向上を目指しています。
図1 メモリ上のレイアウトとファイル上のレイアウトの違いにより、非連続に大量の小さな書き込みを行わなければならないワークロード。非連続で小さな書き込みは並列ファイルシステムの性能を活かしにくい。
図2 BBViewの概要。メモリ上のレイアウトでは連続した大きなバッファを、そのまま一旦書き出す。その後非同期に元のファイルフォーマットを再構築する。再構築はアプリの計算フェーズとオーバーラップするため、実行時間の大幅な短縮が実現できる。
このテーマに関心を持つきっかけとなった出来事や経験があれば、教えてください。
私が研究室に所属した当時、指導教員が新しいアドホックファイルシステムを設計しており、修士課程ではそのシステムを多様なワークロードへ適用する研究に取り組みました。求められる課題に応えるかたちで実装と評価を重ねる中で、「まずアプリケーションの振る舞いを精密に観察し、その要求から逆算して基盤を設計するべきだ」という実感が生まれました。適用の現場で露わになる性能劣化の要因に直面したことが、レイヤ横断のアプリ指向コデザインへの関心を強くし、「より高性能なファイルシステム・ミドルウェアを自ら設計する」という現在の研究方針につながりました。
次に筑波大での学生生活についてお伺いします。普段、一週間をどのように過ごされていますか?
平常時は勤務が中心で、広く利用されている並列ファイルシステムの開発に携わり、機能実装や性能改善を担当しています。また研究室の毎週開催されるミーティングには継続して参加しています。国際会議の締切前は、裁量労働の範囲で勤務時間を調整し実装と論文執筆に集中します。しかし、上司の助言を受けて「締切直前の突貫作業を避け、前倒しで進める」運用への改善が課題です。休日は、実験の実行状況を確認しつつ論文執筆を進めています。
現在、奨学金など、何らかの経済的な支援を利用されていますか?
リサーチ・アシスタントとして雇用されています。
学位取得後について、現時点で目標としていることがあればお聞かせください。
当面は現勤務先で並列ファイルシステムの習熟を深め、コード貢献・性能改善・障害解析を通じて HPC/AI コミュニティへ継続的に貢献します。これらを基盤に、学位取得後は実装で答えを出すリサーチエンジニアを志向します。アカデミアと産業のどちらにもこだわらず、研究の構想を担いながら自ら動くシステムソフトウェアを実装し、性能と再現性で評価するスタイルです。オープンソースを通じて成果を公開・検証し、論文・コード・データの三点でコミュニティに還元することを目標とします。
最後に、博士後期課程への進学を考えている、もしくは今迷っている方々にメッセージをお願いします。
私の中学生の頃の夢は研究者でした。高校生の頃はプログラマーです。高校生の私は現実を見ていますね。
迷走したこともありましたが、初心に立ち返ることが重要かもしれないと今となっては思います。
進学することによる不安を上回る程の情熱があれば後悔することはないでしょう。
不安がある場合でも、「どんな不安が解消されたら進学を決断できるか?」は言語化しておきましょう。
いつの日かその不安が解消されるきっかけが訪れるかもしれません。私のように。