情報理工
研究群紹介
Messages from PhD and PhD candidates 2023 Vol.3 真次 彰平 氏(筑波大学博士研究員 情報理工学位プログラム修了)
今回は、「Messages from PhD and PhD candidates 2023」と題し、博士後期課程の現役学生・修了生に進学の経緯やご自身の研究、今後の展望などについてお話を伺います。
シリーズ3回目は、2023年9月に情報理工学位プログラムを修了して学位を取得され、現在は筑波大学の博士研究員としてご活躍されている真次 彰平(まつぐ しょうへい)さんにご登場いただきました。
博士後期課程への進学を視野に入れた時期は、いつ頃だったのでしょうか?
M1の秋ごろから研究の成果が出始め,またいくつかの研究テーマが思いついた時期でもあったため,D進しても良いかと思い始めました.
とはいえかなり慎重になっており,ドクターの先輩や研究室内外の教員への相談,体験談などとにかく情報を探しました.
そのなかで特に参考になった意見は「D進に向いてない人はそもそも悩まない」,「ドクターの学生が苦悩する要因は主に経済的事情もしくは指導教員との相性(逆に,それらに問題が無ければ進学してよい)」という二つでした.
これらの意見を参考にして,自分はD進する条件を満たしていそうだったためチャレンジしました.
博士後期課程時代の研究テーマについて、教えていただけますか?
大規模なソーシャルネットワークからコミュニティを検索するアルゴリズムの開発に取り組みました.
ソーシャルネットワークはユーザとユーザのつながりをノードとエッジを用いて表現するグラフというモデルに当てはめて分析することができます.
グラフから密な部分構造を見つけることで,ソーシャルネットワーク上のコミュニティを発見することができるのですが,大規模なソーシャルネットワークにおいては,その計算はとてもコストが高いことが知られています.
私の研究テーマはそのような大規模ソーシャルネットワークにおけるコミュニティを効率的に発見するアルゴリズムを開発しました.
具体的には,探索の過程でいくつかのノードとエッジを集約することで,集約されたノードの内部の計算を省略し,効率的な計算を実現しました.
博士後期課程時代に楽しかった出来事、印象的だった出来事などがあれば、お聞かせください。
M2の頃から難関国際会議を目標に投稿し続けていたテーマに関して,私と同時期に同じ研究に取り組む研究者が多く出てきたため,私の執筆中に最先端の研究が塗り替えられるということが度々ありました.
比較対象の研究が次々に高性能になっていく中,それを超える提案手法を開発し続けることにとても苦悩しましたが,その苦労もあって3年越しに採択されたときの喜びを今でもよく覚えています.
学位を取得された後、どのような経緯で現職の道に進まれたのでしょうか。また、現在の業務内容について、教えてください。
来年4月から民間企業で研究開発エンジニアとして入社します.
研究職もしくは研究開発職を志望していたので,興味のある企業の中で最も好待遇だった企業を選択しました.
今年9月に卒業したため,それまでの間ポスドクとして研究を続けることにしました.
現在の研究テーマについて、教えていただけますか?
グラフ要約という技術を用いてグラフアルゴリズムを高速化する手法を開発しています.
グラフ要約はグラフのいくつかのノードやエッジを集約し,一つのスーパーノードやスーパーエッジとして表現することにより,見かけのグラフサイズを小さくする技術です.グラフ要約を用いることにより,大規模なグラフをメモリに保持する空間コストが小さくなります.
現在,私はこの技術を他のプリミティブなグラフアルゴリズムの高速化に応用しようと検討しています.要約されたグラフにはスーパーノードやスーパーエッジを含みますので,それらの要約グラフの特性を活かした効率的な計算方法を見つけることで,一般的なグラフアルゴリズムをそのまま適用する場合と比較して高速な手法を提案したいと思っております.
研究関心の原点についてお伺いしたいのですが、これまで取り組まれてきた研究テーマに関心を持つきっかけは何だったのでしょうか?
昔に競技プログラミングを経験していたためか,高速なアルゴリズムの開発というものに漠然と関心が湧いてきました.その知見を活かして, 最新の論文を読んでいく中で「ここはもっと効率的にできそうだな」と思うことがあると,それをテーマに研究を進めてきました.
ご自身の博士後期課程でのご経験やこれまでのキャリアを振り返り、今、博士後期課程への進学を考えている後輩の皆さんにメッセージをいただけますか?
D進の決断に関して,もう少し研究を続けたいと考えているのであれば,個人的にはそれ以上の動機は要らないと思います.
冒頭にも触れましたが,問題となりやすいのはお金と人間関係です.
幸い,本研究群には経済支援システムがいくつかあると思います.それ以外にも,学振・次世代・インターンなど策は多くありますし,インターンなどであればコネクションがある教員の方もいらっしゃると思います.それらをよく調べ,相談してみると良いでしょう.
また現在のテーマや教員に悩みがある場合は,研究室を変えることも視野に入れてよいと思います.
少しでも皆さんの参考になれば幸いです.