情報理工
研究群紹介

Messages from PhD and PhD candidates 2022 Vol.3 深井 貴明 氏(産業技術総合研究所 コンピュータサイエンス専攻)
今回は、「Messages from PhD and PhD candidates 2022」と題し、博士後期課程の現役学生・修了生に進学の経緯やご自身の研究、今後の展望などについてお話を伺います。
シリーズ3回目は、コンピュータサイエンス専攻で学業等に励み、現在は産業技術総合研究所でご活躍されている深井 貴明(ふかい たかあき)さんにご登場いただきました。
博士後期課程への進学を視野に入れた時期は、いつ頃だったのでしょうか?
時期: M1 の冬頃。
進学を決めた理由: 一言で言うと当時取り組んでいた研究テーマをもっとしっかりやりたいから、でした。私は当時取り組んでいた研究テーマが結構面白いと感じていました。一方で、私は他大学の学部卒後に筑波大学に入学し M1 からそのテーマを始めたため、あと1年(就活や修論執筆も加味すれば半年?)ではとても物足りないと感じました。結果、せっかく筑波大学に来て面白い研究ができているのでもう少ししっかりやりたいな、という考えで博士後期課程への進学を決めました。
博士後期課程時代の研究テーマについて、教えていただけますか?
ベアメタルクラウドにおける物理マシン管理に関する研究に取り組んでいました。
通常クラウド、特に IaaS と呼ばれるクラウドサービスでは仮想化された計算機である仮想マシンを貸し出すことが一般的です。この理由の一つは、仮想マシンがソフトウェアから管理や制御しやすいというものがあります。一方で、仮想マシンは仮想化されていないマシン(以後、物理マシン)と比べて性能が低下してしまうという問題があります。そこで、物理マシンでも仮想マシンと同等の管理しやすさを実現する研究を行っていました。
中でも仮想マシン特有の機能であった「ライブマイグレーション」と呼ばれる機能を仮想化なしで実現する研究は、国際会議でのBest paper award 受賞, IEEE トランザクションへの採択、IEEE CS Japan chapter Young author award 受賞などに繋がりよい研究成果になりました。
博士後期課程時代に楽しかった出来事、印象的だった出来事などがあれば、お聞かせください。
初めて国際会議論文が掲載された時、トランザクションに採択されたときが印象に残っています。トランザクションに掲載された論文はかなり時間がかかった研究であったため、その成果が良い形で残せたことがとても嬉しかったです。あとは研究で疲れた時によく飲みに行っていた Bar DALI はよかったです 🙂
学位を取得された後、どのような経緯で現職の道に進まれたのでしょうか。また、現在の業務内容について、教えてください。
最初はソフトウェアエンジニアとして働いていました。その仕事に大きな不満はなかったのですが、博士号まで取得したのであれば技術を「使う」より「生み出す」仕事をしたいと考え、研究職に転職しました。研究職も一度転職しているのですが、その理由はより自分の専門性を活かせそうなところに身を置きたかったからでした。現職では自分の専門性が活かせているなと感じています。日本では自分の専門性を活かせる場を見つけることは必ずしも簡単ではないなと感じています。
博士後期課程でのどのような経験が、現在の仕事に活かされていると感じていますか?
これまでソフトウェアエンジニアと研究職で計3つの職場すべてで、物事をさまざまな抽象度で論理的に説明する能力は活きると感じています。例えば上司には抽象度が高く要点をまとめた説明、現場の人にはより実装に近い説明、といった風に相手が求める抽象度で説明する能力は仕事で大変役立ちます。これは日々の研究打ち合わせ、研究発表や DC 特別研究員の提案書(私は全部落ちましたが…)を通して博士課程の間にとても鍛えられる能力だと思います。社会に出るまでは恩恵が実感しづらい一方で、社会に出ると他者と差が感じられる部分だと思います。
また、アナロジー思考的に、自分が培った専門的な知識や考え方を抽象化して他の物事に当てはめていくと物事の本質を捉えたり新しい視点を得られたりして面白いです。
現在の研究テーマについて、教えていただけますか?
現在はデータセンタからエッジや IoT デバイスまでさまざまな領域を対象に、OS や仮想化マシンの研究を行っています。広帯域低遅延な広域分散コンピューティングを実現に向けたシステムソフトウェアの性能分析の研究、HPC 環境でユーザーが管理者権限を利用可能にし利便性を向上させる研究、クラウド環境で仮想マシン無停止でそれらを管理するソフトウェアだけ再起動する研究、などを行っています。

図1:現在の研究テーマ
研究関心の原点についてお伺いしたいのですが、これまで取り組まれてきた研究テーマに関心を持つきっかけは何だったのでしょうか?
元々私は01で表現される曖昧さのないデジタルな世界観が好きで PC に興味を持ち、そこから情報系の学部に進学しました。その後情報科学を学んでいく中で、デジタルの世界を構築し制御するものに興味を持ち、OS や仮想マシンといったシステムソフトウェアの分野に足を踏み入れました。
ご自身の博士後期課程でのご経験やこれまでのキャリアを振り返り、今、博士後期課程への進学を考えている後輩の皆さんにメッセージをいただけますか?
私は博士課程は人生の中で唯一、他のことを気にせずとことん自分の専門性を深められる期間だと思っています。一度社会人になると、色々なことに気を回さないといけなくなり、一つのことを極めるのは難しくなってきます。また、筑波大学の博士課程は先生や周りの学生、設備など研究するためのよい環境が整っていると思います。なので、今自分のやっている研究に興味関心があるならば、ぜひ博士後期課程への進学を検討してみることをお勧めします。就職や金銭面の不安もあるかもしれませんが、色々使える制度がありますので、興味があれば一度先生に相談してみるとよいと思います。