構造エネルギー工学
研究群紹介

Messages from PhD and PhD candidates 2024 Vol.1 馬込 望 氏(構造エネルギー工学学位プログラム)
今回は、「Messages from PhD and PhD candidates 2024」と題し、博士後期課程の現役学生・修了生に進学の経緯やご自身の研究、今後の展望などについてお話を伺います。
シリーズ1回目は、構造エネルギー工学学位プログラム COMPLEX PHENOMENA SOLVING/SIMULATION LABORATORYで、三目直登助教ご指導のもと、昆虫が自由に飛ぶときの力学を詳細にシミュレーションする手法の開発に取り組む、馬込 望(まごめ のぞみ)さんにご登場いただきました。
まずは、博士後期課程への進学を決めた理由を教えてください。
私は、人類がまだ達成していないことを成し遂げたり、新しい発見をしたりすることに強い憧れを抱いており、その情熱から研究者を志して博士後期課程に進学しました。進学前は、自分の能力が博士課程にふさわしいかや、金銭的にやっていけるかについて不安がありました。しかし、指導教員から能力を認めていただき、たとえDC(7で後述します)等の経済支援を得られなくても、RAなどの雇用によって金銭的な支援を受けられると保証をいただけたため、進学を決心しました。
博士後期課程への進学を視野に入れた時期はいつでしたか?また、進学に向けてどのような準備をされたか、教えてください。
卒業研究の際から博士後期課程進学を目指していましたが、金銭面の不安が大きかったため、研究者としての能力の向上に加え、DC(後述)の獲得も目標にしていました。指導教員と相談し、M2の5月にあるDC1の申請時期までに査読付き論文を出版するという目標を設定し、B4からM2の間の研究テーマや研究計画を決めて取り組んできました。結果、目標を達成することができ、執筆面でも様々な人の協力を得て、DC獲得に繋がりました。研究支援に採択されるには、論文や学会発表といった実績が必要であり、それを積むには時間がかかります。また、実績を目指すかどうかで研究方針が大きく変わるため、目指すことを決めた段階で指導教員と相談しながら計画を見直すことが重要だと感じています。博士後期課程への進学時には内部進学制度を利用しました。この制度には経済的な支援が付帯しており、DCが不採択だった場合の保険になります。内部進学の結果通知時期から8月の一般入試の申請締切までの間が短いため、内部進学の結果が出る前に一般入試の準備を進めておくことをおすすめします。
現在の研究テーマの概要を教えていただけますか?
昆虫が自由に飛ぶときの力学を詳細にシミュレーションする手法を開発しています。さまざまな方法がありますが、昆虫と空気の複雑な相互作用を詳しく解析しながら、昆虫の自由な飛行を追跡するのは簡単ではなく、現在、こうした解析手法は確立されていません。この課題は、2つの物体の間の境界が大きく移動したり接触したりする中で、細かく解析するべき領域が局所的に存在し、それが複雑に移動する問題に置き換えることができます。そこで私は、同様に局所的な高解像度化が求められる亀裂解析に使われてきた「重合メッシュ法」に注目し、これを基に根本的な解決策となり得る手法の構築を目指しています。また、計算に必要な時間とメモリ量が大きくそのままでは解析が難しいので、スーパーコンピュータなどの分散メモリ型並列計算機による並列計算手法も併せて研究しています。

このテーマに関心を持つきっかけとなった出来事や経験があれば、教えてください。
私はもともと力学が好きで、数学的な側面にも興味がありました。またこのご時世なので情報学のスキルも身につけたいと考えました。その結果、数理的な視点から物理シミュレーションの計算手法を研究する分野に進むことにしました。卒業研究の配属時には航空・宇宙分野にも興味があったため、シミュレーターの応用先として昆虫型の飛行探査ロボットを選びました。なお現在は、応用先の興味が生物分野に移りつつあり、生物工学系のテーマにシフトしつつあります。自分の興味に従って方針が変わっていくのも、研究の面白さだと感じています。
次に筑波大での学生生活についてお伺いします。普段、一週間をどのように過ごされていますか?
いかにちゃんと休むかは大事だなあと感じています。最近は銭湯やサウナに行ったり、たまに運動したりしてリズムを整えています。睡眠は非常に大事なのですが、寝付きが悪いので苦労しています。また、ライブに行ったり劇場に行ったりと趣味も大事にしています。研究のために私生活を犠牲にすると、研究が楽しくなくなったり体調を崩したりするので、研究も私生活も大事にするように気をつけています。心身ともに健康に過ごすためのコツや生活リズムは現在も模索中です。おすすめがあればおしえてください。
現在、奨学金など、何らかの経済的な支援を利用されていますか?
学振特別研究員制度DC1をいただいています。これは、日本学術振興会(科研費などを支給している組織)の特別研究員制度の一つで、1ヶ月20万円の生活費と年間数十万円程度の研究費が支給されます。D1の4月から3年間支給されるものがDC1、D2またはD3の4月から2年間支給されるものがDC2と呼ばれます。その他に私は研究室やその他機関からRA任用やTA任用も受けています。つくばは生活費が安めなのもあり、余暇も楽しみつつ生活していくのに不自由はしない金額だなと思います。これら以外にも、JST SPRING や JST BOOST、民間の奨学金など、博士学生への経済支援制度は様々あります。興味があれば調べてみると良いと思います。
学位取得後について、現時点で目標としていることがあればお聞かせください。
まず博士研究員となりスキルアップと研究実績の獲得に努め、その後は大学教員を目指そうと考えています。ですが、まだD1なので今後変わる可能性も高いです。
最後に、博士後期課程への進学を考えている、もしくは今迷っている方々にメッセージをお願いします。
進学する上での心配事としてよく聞くのは、能力と金銭面でしょうか。必要な研究能力は、目指す職業(大学教員、企業の研究職、国の研究機関など)によって異なりますが、自分の意思を大切にし、物事を冷静かつ批判的に検証できる性格があれば素質としては十分で、博士課程の間に求める能力を身につけることができると思います。金銭面に関しても、現在は様々な支援があります。ネットで調べてみるとその多さに驚くかもしれません。あとは、学術的な興味や好奇心がどのくらい強いか、自分にとって大切かかなと思います。また、進学か就職かは、学術的な研究をするかしないかの2択では無く、働きながら進学する社会人博士という選択肢や、修士で研究職に就くという選択肢もあります。自分の軸を大事にし、柔軟に考えて将来設計をすると良いのではないでしょうか。心から応援しています。